研究検査の「玉手箱」

研究や研究検査にまつわる、ちょっとしたコツやヒントなど、お役に立つかも知れない情報を掲載しています。

1.研究を始める前に

  • 過去の報告が全てではない:「不可逆と信じられていた反応」も覆される!
    研究の開始には、まずじっくりと推論を立てることが大切です。ただし、既存の理論に拘り過ぎると新しい発見に結び付きません。過去の報告を信じきっていませんか。診断方法や治療方法も日々、進歩しています。不可逆反応と信じていた反応も可逆反応であったという報告もあります。一度は申請した、ある新型コロナ感染症の治療薬も最終的にその効果が否定された話は有名です。
  • プラセボの考え方:「蜂蜜の鎮咳効果」は固有の効果ではなかった?
    蜂蜜の鎮咳効果は古くから有名ですが、プラセボとして甘くトロリとした物質を使ったら同様の効果が得られたとの報告もあります。どこまで似せるかもポイントですね。
  • 固定観念に捉われない:水泳は喘息を悪化させる?
    スイミングスクールは喘息を悪化させていた?
    水泳との関係ではありません。実は水に含まれている塩素が原因でした。固定観念はいけませんね。
  • 脱常識:「血小板減少症とピロリ菌」の意外な関係。
    脱常識という言葉が存在します。新しい発想は大切です。血小板減少症とピロリ菌の関係は本当に意外でした。ピロリ菌の検査は胃癌のリスク検査の意味合いだけではありません。うつ病におけるセロトニン神話もどこまでが真実でしょうか。
  • 試験の実施時期:皮膚の試験は冬を避けましょう。
    皮膚に対する臨床試験は、皮膚が乾燥する冬は避けた方がよいでしょう。食品試験も注意が必要です。
  • 試験の実施時期2:アレルギーの試験は衣替えの季節を避けましょう。
    ダニアレルギーやハウスダストアレルギーの場合、衣替えや大掃除はアレルギー症状を悪化させる要因の一つです。臨床研究や食品試験において注意が必要です。
  • 材料を考える:涙にも様々なメディエーターが含まれる。
    意外な材料から意外な物質が検出されるかもしれません。涙にも様々なメディエーターが含まれており多くの成長因子が存在しています。どのようなメカニズムが存在するのでしょうか。
  • 薬剤は複数の作用を及ぼす:副作用とされていた作用は「主作用」かも!?
    改めて、薬剤の副作用も調べてみてはいかがでしょうか。意外な副作用を持っている場合もあり研究に繋がるかもしれません。多くの薬剤は複数の作用を持っています。副作用と呼ばれている作用が実は主作用かもしれません。
  • 治療薬と対症療法薬:一緒に服用する薬剤が逆の作用を持ち合わせているかも!?
    治療薬と対症療法薬は異なります。一緒に服用する治療薬と対症療法薬が真逆の作用を持っている場合もあります。実は痛み止めが炎症性疾患の回復を遅らせていたという報告もあります。研究のヒントになるかもしれません。
  • ヒト以外の生物に対する役割にも着目?:TMAOは深海魚も持つ。
    生物の系統学からも研究のアイデアは浮かぶかもしれません。例えば、ヒトも深海魚も持つ物質(TMAO)があります。深海魚での役割もよく調べておきたいところです。
  • 物質の名称に注意:「胎盤成長因子」は眼内液にも存在する。
    物質の名称にごまかされてはいけません。胎盤成長因子は網膜症の眼内液にも存在しています。
  • 炎症は生体防御反応:「発熱」は生体防御反応のため、「下げること」に固執しない。
    急性炎症は生体防御反応です。悪いイメージから良いイメージで研究を考えてみませんか。発熱は生体に侵入した微生物を退治するための生体防御反応です。下げることだけに注目していてはいけないかもしれません。慢性炎症と急性炎症は別物ですね。
  • 炎症性サイトカイン:必ずしも悪者ではない!
    発見されたときの働きが全てではありません。サイトカインは多彩な作用を持ちます。炎症性サイトカインと聞くと悪いイメージを持ちますが、本来は生体に負荷がかかった際、ときに良い働きを持っています。IL-6は抗体の産生に働きます。
  • 抗体の性能を確認:抗原の認識位置、他の抗原との交差反応・特異性。
    市販の抗体。その抗体は抗原のどこを認識していますか? 他の抗原との交差反応は確認されていますか? どれだけ特異性がありますか? 中和抗体ですか?
  • メカニズムを知ろう:HDL-Choを増やす薬は血管障害が高かった!
    善玉であるはずのHDLコレステロールを増やすという、ある薬の臨床試験は失敗に終わっています。薬を投与された患者さんは反対に血管障害や死亡率が高かったと報告されています。薬剤により産生されるHDLコレステロールの相同性や産生機序が本来の生体内の姿と異なっていたのかもしれません。
  • 信頼できる測定結果を得るために:検査所の精度管理体制も大切。
    信頼できる測定結果を得るには、適切な精度管理のもとに検査が実施されていることが大切です。研究検査項目の測定先を選ぶときは、外せない評価事項です。精度管理がしっかりできている検査所は、おおよそ業績も伴っています。

2.検査の実施にあたり

  • 多数検体の場合:重症の患者さんから。
    多くの患者さん検体で測定する際は重症の患者さんから測定してはいかがでしょうか。期待した結果が得られなかった場合の無駄な検査を省くことができますので、他の項目の測定も再検討しましょう。
  • 検査試薬の確認:測定原理や特性を確認しておく。
    イムノアッセイは必ずしも完全体の目的物質を測定しているものではありません。特にスポット項目では測定試薬の情報も十分に確認しましょう。競合法は一種類の抗体しか使わないため交差反応には注意が必要です。
  • 同時測定の検討:サイトカインは共通の受容体を持つ。
    いくつかのサイトカインは共通の受容体と結合し同じ作用を持っています。複数項目の同時測定も有用かもしれません。

3.細胞培養試験の場合

  • 進歩した採血管:遠心分離するだけで単核球が得られる。
    末梢血単核球培養試験から様々な知見が得られます。今では採血管を遠心分離するだけで単核球が得られる時代になりました。幼児は成人に比べて白血球中の割合が高いです。
  • 細胞培養試験の広がり:好酸球はコラーゲンと共培養するだけで長生きする。
    細胞培養試験は一つの条件から複数に広がります。培地、濃度、培養時間、共培養、プレ培養等。一つの方法のみで想定していた結果が得られなくとも、いろいろと工夫してみましょう。古くは、好酸球はコラーゲンと共培養するだけで長生きすることに驚きました。
  • 予想外の結果は新発見かも:培養上清中の物質は蓄積されるだけではなかった。
    予想外の結果であった場合、ミスもあれば、新しい発見もあるかもしれません。実際に上清中のサイトカインの測定値が増加した後に低下したこと(蓄積されない)を経験しています。当時は何かしらテクニカルエラーがあったとばかり思っていましたが、その後に新しい発見であることがわかり論文投稿されていました。
  • 測定試薬の標準品を確認:あるサイトカインはダイマー型が機能を持つ。
    いくつかのサイトカインや成長因子はダイマー型が機能を持ちます。標準品の分子量や機能が確認されている測定試薬を用いることが大切です。細胞培養試験に用いる場合、活性を持った標準物質であるか確認しておきましょう。
  • 帯電物質:吸着に注意する。
    帯電している物質や容器の取り扱いには吸着に注意しましょう。

4.検査結果が出た後に

  • 有意差の確認:検査の再現性(C.V.)を確認する。
    検査結果に有意差が出たとしても、数値の幅が狭い場合は、検査自体の再現性(C.V.)の確認もしましょう。
  • 性差の評価:その男女差、本当?
    男女で有意差が出ました。本当ですか? ヘマトクリット値を考慮すれば当然かもしれません。女性で高値となれば興味深いですね。
  • タンパク濃度が予想に反して高値とならなかった:産生していないのか、壊れたのか!?
    予想に反して測定物質が高値とならなかった場合、インヒビターや分解酵素も増えているからかもしれません。遺伝子発現との乖離があればなおさらです。遺伝子の発現だけではタンパク産生が純粋に亢進しているとは言い切れず、タンパクが増加して機能しているか否かは不明です。
  • 原因なのか結果なのか:どこで繋がっているのか推論を立ててみる。
    統計学の進歩により疫学研究から病気と相関する様々な事象の情報が得られます。原因なのか結果なのか、推論を立ててみましょう。風が吹けば桶屋が儲かるという諺もあります。どこでどう繋がっているか多点で考えてみませんか。
  • 速報の論文を目指す:「初めて」がポイント!
    速報で論文を載せたい、そんなときは「初めて」という言葉を強調して使いましょう。載せたい雑誌の論文も引用してみてはいかがでしょうか。
  • 過去の報告と数値レベルが異なる場合:測定法が違うかも!?
    過去の報告と数値レベルが異なっている場合、測定方法や用いた測定試薬が異なっていることが原因かもしれません。論文投稿の際はレフリーから指摘を受ける可能性が高いので十分な理論武装が必要です。
  • 得られた数値:時系列の動きにも注意。
    数値はレベルだけではなく、動きも大切です。同じ数値でも上がってきたのか下がってきたのか、それとも変動がなかったのでしょうか。
  • 血清か血漿か:測定値が乖離するとき、血小板凝集の影響を確認。
    血清と血漿で測定値が大きく異なる場合、回収率の問題もありますが、血小板中に測定物質が含まれているからかもしれません。まずは、採血後の血小板凝集の影響がないかの確認が必要です。場合によってはトータルとフリーという考え方ができるかもしれません。血小板凝集が関与する場合、血清ではベースが高くなるため有意差が得られないにもかかわらず、血漿では差が得られる可能性もあります。

5. ご相談ください

  • ご相談ください:スポット検査も受託が可能かもしれません。
    案内には記載されていないが測定試薬が販売されている。そんなときにも気軽にお問い合わせください。マルチサイトカインの測定も積極的に対応しています。
    ページ上部の「お問い合わせ」からメールにてお願いいたします。回答には少々時間をいただく場合がございますこと、ご了承ください。